共謀罪と国際組織犯罪防止条約2006/05/04 02:55

共謀罪の問題点については、すでに多くの論者が指摘しているとおりだと思います。私がここで付け加えることはなにもないのですが、まだ廃案になったわけではありませんので、「枯れ木も山の賑わい」ということで、今日はこの問題を取り上げてみたいと思います。

法務省の組織的な犯罪の共謀罪に関するQ&Aによれば、共謀罪の新設は、国際組織犯罪防止条約締結のために必要だとされています。しかし、

Q6 国際組織犯罪防止条約に基づく法整備なのですから,組織的な犯罪の共謀罪の対象を国際的な犯罪に限定すべきではないのですか。
A  国際組織犯罪防止条約は,国際的な組織犯罪に対処するための国際協力の促進を目的としていますが,組織犯罪に効果的に対処するため,各締約国が共謀罪を犯罪とするに当たっては,国際的な性質とは関係なく定めなければならないと明確に規定(同条約第34条2)しており,国際性の要件を付することを認めていないので,このような国際性を要件とすることはできません。
 また,実際問題としても,仮に国際性を要件とすると,例えば,暴力団による国内での組織的な殺傷事犯の共謀が行われた場合であっても,このようなものは国際性の要件を満たさないことから,これを共謀罪として処罰できなくなってしまいますが,そのようなことは不合理です。

とあるように、処罰の対象は国際的な犯罪に限定されてはいません。同条約第34条2とは

第5条、第6条、第8条及び第23条の規定に従って定められる犯罪については、各締約国の国内法において、第3条1に定める国際的な性質又は組織的な犯罪集団の関与とは関係なく定める。ただし、第5条の規定により組織的な犯罪集団の関与が要求される場合は、この限りではない。

のことですが、「百年の孤独」さんも指摘するとおり、第5条の規定により組織的な犯罪集団の関与が要求される場合は、この限りではないということも「明確に規定」されているのですから、あえてそこに触れずに「国際性を要件とすることはできません」と言われても、納得することはできません(注1)。さらに、Q&A後段の

国際性の要件を満たさないことから,これを共謀罪として処罰できなくなってしまいますが,そのようなことは不合理です。

に至っては、全く意味不明です。私は法律の専門家ではないので正確なことはわかりませんが、確かに同じ犯罪を犯した人が2人いた場合、片方を罰して片方を罰しないのは不合理だ、ということはありうると思います。しかし、この「犯罪」は、あくまでも「国際組織犯罪防止」のために「新設」されるわけですから、「国際性の要件を満たさないから処罰できない」としても、「不合理」だとは言えないと思います。

私は民主党修正案【PDF】のうち、「重大な犯罪」の定義の変更(4年を5年にする)によって対象犯罪を限定することについては判断を保留します(条約の定義と一致しなくなるため)。それよりも、「犯罪」の定義を条約に合わせたうえで、その適用を「国際性の要件」を満たす場合のみに限定することを重視します(その部分は民主党案に賛成です)。さらにそのうえで、今後関連する法整備がどのように進められるか(盗聴法の改悪など)についても、注意を払い続けることが必要だと思います。

***

参考のため、条約の一部を抜粋して紹介します。

1.組織的な犯罪集団の定義(第2条のa)

「組織的な犯罪集団」とは、三人以上の者から成る組織された集団であって、一定の期間存在し、かつ金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため一又は二以上の重大な犯罪又は条約に従って定められる犯罪を行うことを目的として一体として行動するものをいう。

2.重大な犯罪の定義(第2条のb)

「重大な犯罪」とは、長期四年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪を構成する行為をいう。

3.国際性の要件(第3条の2)

  • a)二以上の国において行われる場合
  • b)一の国において行われるものであるが、その準備、計画、指示又は統制の実質的な部分が他の国において行われる場合
  • c)一の国において行われるものであるが、二以上の国において犯罪活動を行う組織的な犯罪集団が関与する場合
  • d)一の国において行われるものであるが、他の国に実質的な影響を及ぼす場合

4.必要な立法措置(第5条の1)(注2)

締約国は,故意に行われた次の行為を犯罪とするため,必要な立法その他の措置をとる。
  • a)次の一方又は双方の行為(犯罪行為の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の犯罪とする。)
    • i)金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって,国内法上求められるときは,その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの
    • ii)組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は特定の犯罪を行う意図を認識しながら,次の活動に積極的に参加する個人の行為
      • a 組織的な犯罪集団の犯罪活動
      • b 組織的な犯罪集団のその他の活動(当該個人が,自己の参加が当該犯罪集団の目的の達成に寄与することを知っているときに限る。)

***

注1)第5条の3(組織的な犯罪集団の関与するすべての重大な犯罪を適用の対象とする)と合わせて考えると、この但し書きは、「組織的な犯罪集団の関与」にのみかかると解釈すべきなのかもしれません。しかし、そのような「危険きわまりない」国内法を、119か国にものぼるという条約締結国が、躊躇なく整備したというのでしょうか・・・私にはとても信じられません。

注2)公明党によれば、ii)の「参加罪」はあまりに日本の刑法原則に合わないため、i)の「共謀罪」だけの新設を決めた、とのことです。しかし、これだけ広範にわたる犯罪について、「合意」しただけで(いくつかの条件を満たせば)処罰されるということが、日本の刑法原則に照らして本当に妥当なことなのか、場合によってはもう一度原点に戻って考え直す必要があるのかもしれません。

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_ 情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士 - 2006/05/04 04:16

衆議院法務委員会の議事速報(HP未掲載)を読むと,いかに与党案(末尾に引用します)が矛盾に満ちたものかがよく分かる。典型的なのは,平岡議員が,適用される団体を限定するとされる「共同の目的」の意味について質問した際の与党側の回答だ。すなわち,与党早川議員は,「共同の目的」とは,構成員の結合関係の基礎になっている目的,すなわち,まさにそのために構成員が継続して結合しているという,構成員の継続的な結合関係を基礎づけているその根本となる目的でなければならないと考えられる−と答弁した。

下の与党案を見て欲しい。そんなこと書いてありますか?

そこで,平岡議員は「何か,基礎になっているとか,根本になっているというようなことを言っていますけれども,そんなことはどこにも書いていないんですよね」と指摘したが,早川議員は,委員会での答弁が趣旨になるという旨の発言をした。

当然,平岡議員は,
「共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体,こう書いてあれば,共同の目的の中に一つでも重大な犯罪等を実行することが含まれていればこれは当然適用対象になるというふうに普通は読みますよ。だから私は問題だと言っているんですよ。」
「当時,組織的犯罪処罰法が制定されたときは共通の目的というのはこういうふうに考えていたけれども,その後の議論によって,この共通の目的というのはこういうふうに直しますということで変えられてしまうことが行われる。まさに,法律にちゃんと書いておかなければ,いつ,いかなるときに勝手に変えられてしまうか分からない。そういうリスクがあるわけですよ」(この点,詳しくはここ←)
と追及している。

第2に,与党案が組織的犯罪処罰法の第6条の2という共謀罪創設規定についてのみ,団体について「(その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体である場合に限る。)」とした以上,組織的犯罪のそのほかの箇所で使われている「団体」という用語は,「まったく違法性のない,通常の正当な業務をしている会社について適用があることになるのではないか」という問題だ。

この点について,早川議員は,与党提案によって,現行の3条1項の「団体」の要件を拡張するものではないと答弁するが,その理由はまったく不明だ。


第3に,共謀罪を創設する根拠となっている国際的な組織犯罪の防止に関する国連条